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最高裁判所大法廷 昭和26年(あ)3472号 判決

主文

原判決及び第一審判決を破棄する。

被告人を懲役二月に処す。

本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

第一審及び当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人杉之原舜一の上告趣意(一)について。

所論は、第一審判決が、起訴状に記載のない「委員長は税金が戦争準備のために使われていないというが、平衡交付金が減らされたこと自体、戦争準備の為に使われている証拠だ」との文言を、被告人の発言内容として判示したのは、刑訴三七八条三号の「審判の請求を受けない事件について判決をした」違法があり、憲法三一条に違反するというのである。

しかし右が違憲であるとのことは原審で主張せず、従って原判決の判断を経ていない事項であるばかりでなく、第一審判決が附加した事実は、訴因の内容たる事実を明確にし詳細にしたに止まり訴因に変動を来すものではなく、従って公訴事実の同一性を害するものでもないから、第一審判決は審判の請求を受けない事件について判決をしたものではない。故に所論違憲の主張はその前提を欠き上告適法の理由とならない。

同(二)の(2)について。

所論は憲法違反を主張するけれども、その実質は地方税法一二条の解釈適用の問題であって、刑訴四〇五条所定の上告理由にあたらない。

被告人の上告趣意について。

所論は原判決の事実認定並びに地方税法の解釈適用を争うもので刑訴四〇五条所定の上告理由にあたらない。

弁護人杉之原舜一の上告趣意(二)の(1)について。

裁判官真野毅、同小谷勝重、同島保、同藤田八郎、同谷村唯一郎、同入江俊郎の意見は、昭和二一年勅令三一一号「連合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関する勅令」は、平和条約発効と同時に当然失効し、その後に右勅令の効力を維持することは、憲法上許されないから本件勅令違反の点については犯罪後の法令により刑が廃止された場合にあたるとするものであること、昭和二七年(あ)第二八六八号同二八年七月二二日言渡大法廷判決記載の右六裁判官の意見のとおりであり、又裁判官栗山茂、同岩松三郎、同河村又介、同小林俊三の意見は、右勅令三一一号は、平和条約発効後においては、本件に適用されている昭和二〇年九月一〇日附連合国最高司令官の「言論及び新聞の自由」と題する覚書第三項の「連合国に対する虚偽又は破壊的批評及び風説」を「論議すること」を禁止する部分は憲法二一条に違反するから、右指令を適用するかぎりにおいて、平和条約発効と共に失効し、従って、本件勅令違反の点は犯罪後の法令により刑の廃止があった場合にあたるとすること、昭和二七年(あ)第二〇一一号同三〇年四月二七日言渡大法廷判決記載の栗山、岩松、河村、小林各裁判官の意見のとおりである。よって以上一〇裁判官の意見によれば、本件勅令違反の点は犯罪後に刑が廃止されたときにあたるから、原判決及び第一審判決はこれを破棄しなければ著しく正義に反するものである。

よって刑訴四一一条により原判決及び第一審判決を破棄し、同四一三条但書により更に判決をするのであるが、第一審判決の確定した事実中、被告人が地方税を納めないことをせん動した点は、昭和二五年法律二二六号地方税法一二条一項にあたるので所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内で被告人を懲役二月に処し、刑法二五条により本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し、刑訴一八一条に則り第一審及び当審における訴訟費用は被告人の負担とする。次に昭和二一年勅令三一一号違反の点は犯罪後に刑が廃止された場合にあたること前記のとおりであるが、右は前記地方税法違反の罪と一個の行為で二個の罪名に触れるものとして起訴されたものであるから特に主文において免訴の言渡をしない。よって主文のとおり判決する。

昭和二一年勅令三一一号違反の点に対する裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同本村善太郎の反対意見は、次のとおりである。

平和条約発効前に犯した昭和二一年勅令三一一号違反の罪に対する刑罰は平和条約発効後といえども、廃止されたものといえないことは前記昭和二七年(あ)第二〇一一号の大法廷判決記載の意見のとおりである。

なお、右勅令違反の点に対する各裁判官の補足意見は前記昭和二七年(あ)第二〇一一号の大法廷判決に記載乃至引用したとおりである。

裁判官霜山精一、同井上登は退官につき評議に関与しない。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎)

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